【映画】ファーザー (The Father)

 認知症の父親の話を、主に父親の視点から描いている映画。ストーリー上の主人公は父親役のアンソニー・ホプキンズだが、テロップの最初は娘役のオリヴィア・コールマン。2020年の映画で、監督はフランスのフローリアン・ゼレール (Florian Zeller) という人。作家からスタートした人。かなり心に刺さる映画だったので、Wikipediaを見ると、Rotten Tomatoという映画批評サイトで8.36/10.0という高得点だったらしい。映画ファンや批評家からの評価が高かったということだ。そらそうだろう。

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 アンソニー・ホプキンズ演じる認知症がひどくなってきている父親が、記憶が混乱し、時間の感覚が薄れ、幼児退行していく様が描かれる。娘は面倒を見ようとするが、恋人からのドメスティック・ヴァイオレンスもあり、結局は施設に入れることになる。日本では有吉佐和子原作の「恍惚の人」が映画・ドラマ化されて有名だが、認知症発症者本人視点での映画というのは初めて見た。

 聴覚障害のある女の子が出てくる「聲の形」という大今良時さんの漫画がある。全7巻のうちの第6巻の後半に、この女の子に聴覚が少し残っている状態にあるとき、彼女にクラスメイトの声がどのように聴こえ、彼女がそれをどのように感じていたのかが描かれている。私がこの作品で気に入っているシーンだ。

 この「ファーザー」という映画を見たとき、「聲の形」のこのシーンが思い浮かんだ。この映画のストーリーは単純だ。しかし、こんな本人視点の切り口で認知症の話を見せられたら、いろいろなことを考えざるを得ない。親が認知症になるかもしれないし、自分が認知症になるのかもしれない。どういう判断を自分はするのか、どういう気持ちに自分はなるのか。