【試験研究】サファイア基板の切り出し(ファインクリスタルカッター・アルタイル使用) Scratching and breaking sapphire substrates using "Fine Crystal Cutter Ultile".

 ファインクリスタルカッター・アルタイルという製品を使って、サファイア基板を切り出す方法を紹介します。今回用いるのは、2インチ径のサファイア基板です。けがいて(傷をつけて)割る方法です。劈開方向に割ったとしても、厳密には劈開 (cleaving)とは言わないよなあ、という作業です。

 ファインクリスタルカッター・アルタイルは、アステラテックという会社の製品で、クリスタルベースなどの基板取り扱い商社や、最近ではアマゾンビジネスでも取り扱いがあるようです。先端に小さなダイヤモンドホイール刃がついていて、それを直線に動かして、基板をけがきます。刃の高さと、刃の圧力を調整することができるだけでなく、けがく幅も定めることができます。試験研究に最適です。

 私が購入したのは、台のサイズが210x210mmのFU-100-Sです。だいたい10万円でした。刃をセットにすると10万円を越えますが、刃を別にすると10万円を下回るので備品になりません。昨今は何でも値上がりしているので、今後値上がりするかもしれませんが…。

 基板を置く台には薬包紙を置きます。薬包紙は、けば立たないように表面処理してある紙なので、半導体基板のハンドリングによく使います。パラピンのほうがいいような気もしますが、在庫の都合上、硫酸紙を使っています。手袋にはポリエチレン手袋(サニメント手袋)を使うのがマストです。ニトリル手袋は、半導体基板を触ったときに汚れが付くので避けましょう。ニトリル表面に何かついているのか、皮脂が染み出すのか分かりませんが、跡が付きます。

ファインクリスタルカッター・アルタイルです。先端に小さいダイヤモンド刃がついたホイールを直線状に動かして、表面に直線のケガキ傷をつけます。そのとき、距離をちゃんと測ってけがくことができます。なお、作業中はポリエチレン手袋を使います。ニトリル手袋を使ってはいけません。基板表面が汚れます。

刃の設定をする

  1. 刃の押さえ圧力を設定する。材料によって異なる。サファイアは硬いので、黄色のゲージで1mmの場所にする。設定一覧表は、ステージの左下(写真では右上)にシールで貼られている。
  2. 刃の高さを設定する。レバーをけがく方向と平行にしたときに、刃が台から少し浮いた状態にする。そうしないと、基板の端まで来た時に、ガクンと刃が落ちて、台を傷つけるだけでなく、刃の寿命を縮める可能性がある。

刃の押さえ圧力を設定する。指で示しているネジを回して調節する。サファイア基板の場合は1mmの場所にする。(爪が白くなっているのは、アルコールを素手で取り扱って、爪が脱脂されてしまったからです。真似しないでください。)

刃の高さを調整する。左手で回しているダイヤルで調節する。台から少し浮くようにする。基板の厚さは0.4mm程度なので、0.2mmぐらいは浮かしておく。この高さは、けがいているうちに動くので、作業中にときどきチェックする。
 シリコン基板などの場合は、筋を入れるだけで割れる。こういう基板の場合は、十分に浮かせておいて、少しずつタッチさせるように刃を下ろしていくと良い。

 

けがき作業

2インチサファイア基板。円形だが、下の部分が平らになっている。これをオリフラ(orientation flat)という。オリフラは結晶の方向を示している。オリフラの面方位は基板ごとに異なる可能性があるので、納品書を見てチェックする。c面(0001)サファイア基板の場合は、a面(11-20)であることが多い。
 なお、ファインクリスタルカッター・アルタイルは、けがき作業をするときは、けがく方向にレバーを倒し、していないときは写真のようにけがく方向と垂直にしておく。垂直にしておくと、刃が浮くようになっている。

けがき作業中。サファイア基板の場合は、鏡面研磨している面を下にしてけがいている。薬包紙の上にゴミがないことが前提。けがくときに指で押さえるが、鏡面研磨している面をあまり指で触りたくないから、裏にしている。すぐ割れる柔らかい基板の場合、鏡面研磨側を上にするべきか下にするべきかどうかはケースバイケースでよく考えて判断する。プロセス途中であることもあるので、どちらがよいか一概には言えない場合がある。
 基板は、手前の物差しの部分と、垂直方向を決める治具で固定する。垂直方向を決める治具にはマグネットがついていて、けっこうきっちりと固定することができる。けがくときには、オリフラを物差しか垂直方向固定治具のどちらかに押し当ててけがく。

垂直方向固定治具は、基板を左右から挟み込んで使ってもよい。いずれにせよ、指で押さえることは必要。

けがくと、結構ゴミが出る。一方向をけがいた後は、一旦ブローして除去し、新しい薬包紙を引く。薬包紙の上にゴミを残して、基板の鏡面研磨側に傷をつけないようにする。たいていの物質はサファイアより柔らかいが、けがいたときに出てくるゴミはサファイアであることを気にして作業する。

 

縦横にけがいた例。片面研磨基板の、鏡面でない面(裏面)から見ている。13 x 10mmにけがいた。13mmの辺がオリフラの辺になるようにしている。深くけがけば割るのはたやすい。けがく方向の面方位によっては、けがいている途中で割れることがあるので注意する。まっすぐ割れてくれればよいが、そうでないときには厄介。けがき作業が終わるまで、ギリギリ割れないようにするのがベスト。よって、面方位による割れやすさの違いを把握して作業する。割れやすい方向には浅く傷をつける。

基板を割る

 割れやすい面方位は、チョコレートを割るように指でパキパキと割れる。ここでは割りにくい方向に割る方法について記しておく。準備するのは、5mm厚のステンレス板。大きさは基板より少し大きいサイズ、たとえば60x60mmや60x40mmなどにする。硬いほうが良いので、SUS304製のものなどを購入する。また、この作業ではエッジが重要なので、6面フライス処理したものにする。ミスミの型番だとSUS304-6F-BSD-NNN-60-60-5など。1枚2000円ぐらい。2枚用意する。

SUS304板と薬包紙を用意する。

薬包紙をSUS304板の上に置いて、エッジのところで均一に力を入れて割るようにする。

 もう一枚のSUS板でこのように押さえる方法もある。少しとげが出たように割れたとき、そこを割って除去するときに有効な方法。ここまでしないと割れない場合というのは、こうやってもうまく割れないのですが…。

 

サファイア基板の面方位による割りやすさについて

 深くけがけば割りやすいのは分かっていますが、深くけがくのは大変です。ここでは、サファイア基板の割れやすい方向と割れにくい方向についてまとめておきます。基板の面方位とオリフラの面方位については、私の手持ちの基板をもとに書いています。

  • c面基板は、オリフラ方向のa面も、その垂直方向(m面)も簡単に割れる。かける力はそれなりだが、失敗することはあまりない。失敗するとしたら、垂直にけがけていないとき。3インチ基板の時は慎重に。
  • a面基板は、オリフラ方向のc面(つまりオリフラに平行方向)に割れにくい。その垂直方向(m面)は割れやすい。c面が出る方向に割る時は、幅が10mmなら成功確率は90%ぐらい。幅13mmなら成功確率が50%ぐらいに低下する感じである。よって、まずオリフラと平行に13mm幅でけがき、そのあとオリフラに垂直に10mm幅でけがくと、10x13mmの基板片が比較的歩留まり良く切り出せる。10mm幅のほうがc面になる。
  • m面基板は、どの方向にも割れにくい最悪の面方位である。上の例は実はm面基板でした。ゴリゴリやってけがいても、ちゃんと割れず、最悪です。 オリフラはa面なので、割れやすくてもいいはずなのに…。割れやすさに、割る方向の依存性があるのかもしれません。
  • r面基板は、オリフラ方向のa面も、その垂直方向(m面)も簡単に割れます。あまりにも簡単に割れるので、けがくのは少しだけで大丈夫です。垂直にまっすぐけがけていたら、これでいいの?ぐらいの力で割れます。