【雑記】中島みゆき「世界が違って見える日」リリース!

 2023年3月1日に、中島みゆきが44枚目の新しいアルバムをリリースした。タイトルは「世界が違って見える日」。私はAmazonで、クリアファイル特典付きで購入した。前回のアルバムは2020年1月8日リリースの「CONTRALTO」だから3年ぶりということになる。2019年末からコロナ禍が始まり、エンターテイメント系は自粛された。この間にはベスト盤の「ここにいるよ」(2020年12月)、そして中止された全国ツアーを受けてLIVE版の「結果オーライ」(2022年2月)が出ている。「結果オーライ」の冒頭の「一期一会」では、中島みゆきは笑っているが聞いてる私は涙した。(なお、中島みゆきさん、と敬称をつけないのは、すでに概念になって一般名詞化してしまっているためと思ってください。)

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 さて、「世界が違って見える日」だが、リリースされたのを受けて、3月2日にNHKがSONGSで中島みゆき特集を放送した。ゲストは工藤静香さん。彼女のお気に入りの曲として、「ヘッドライト・テールライト」と「銀の龍の背に乗って」を紹介し、古い曲として「あの娘」を紹介、「島より」を歌唱した。最後には「世界が違って見える日」の歌詞カードのあとがきが中島みゆきの録音音声によって朗読され、「俱に」のMVが部分的に流された。Twitterトレンドに「中島みゆき」が入っていたので覗いてみたが、ほとんどはこのSONGSへのネガティブな批判であった。久しぶりのアルバムを聴いたファンからしてみたら、もうちょっと落ち着いた番組を期待していたのだろう。(しかし、工藤静香さん、細かったですね!)

 「世界が違って見える日」だが、5-6周聞いてみた。感想をざっと書いておく。もう少し聞き込めば感想は変わるかもしれないし、数年経って聞くと理解できたりする。単に別解釈をしただけなのかも知れないが。これが中島みゆきの歌の特徴だと思う。

 全部で10曲入っているが、M1の「俱に」(ともに)は「PICU小児集中治療室」という北海道を舞台にした医療ドラマの主題歌、M2の「島より」は2021年に工藤静香に提供された楽曲、M3の「十年」は2007年にシャンソン歌手のクミコという人に提供された曲である。M4以降の7曲が今回のアルバムのために新しく作られた楽曲と言っていい。提供曲のセルフカバーは別アルバムにする(「おかえりなさい」や「御色なおし」など)ことが多い中島みゆきであるが、今回は混じっている。すべて歌詞には英語歌詞がつけられていたが、英語歌詞からでないと読み取れないところはほとんどなく、情報量は日本語歌詞のほうが多い。編曲は瀬尾一三さん、M4の「乱世」のみ中村哲さんとのコンビでの編曲となっている。

 最初の「俱に」はパートごとに異なる種類の声で歌唱されている印象的な歌だ。「共に」ではなく「俱に」となっている。これは「つれだって」という意味を強め、共同作業というよりは、個々が誇り高く前に進もうという意味を出そうとしたためだと思う。MVがYoutubeでも公開されているが、こちらの方から制作意図を明瞭には読み取ることは難しかった。M2の「島より」は恋人の別れの文についての曲。中島みゆきの流れるような歌唱のほうが、工藤静香さんの歌唱よりはだいぶいい。「島」とは日本のことか?と一瞬考えたが、そうでもなさそう。「十年」は、1970年代の曲をイメージしたクミコさんのアルバムに合わせてあるのか、中島みゆきの初期の楽曲に似た感じで、ドラマのある曲。冬から秋にかけてのスパンで、気持ちを伝えられない女性の心を歌っている。

 M4の「乱世」以降は、コロナ禍で傷んだ社会を歌った歌か。ここで歌にしておかなければ、という気持ちが伝わってくる。M4の「乱世」は苦しむ若者を歌っているのか。M5の「体温」では「体温だけが頼りなの、体温だけがすべてなの」と歌う。M6の「童話」では「童話は童話、世界は世界、子供たちに何んと言えばいいのだろうか」と歌う。M7の「噤」(つぐみ)にいたっては鳥の「鶫」(つぐみ)のことかと思えば、歌詞カードでは「口を噤む」の「噤」と書き、「噤みながら逐われゆく」は「追われゆく」のではなく「駆逐される」の「逐」を使っている。なお、Wikipediaによると、中島みゆきが初めてステージを踏んだ時に歌った曲が「鶫の唄」とされている。

 M8の「心月」(つき)については作者註がある。月のように澄んだ心というより、人がもつ仏性のことを指しているそう。繰り返しフレーズが続く歌詞を静かに思いを巡らしながら聴く曲。M9の「天女の話」は大阪の心斎橋が歌詞に出てくる。友達のために泣く女の子の話。M10の「夢の京」(ゆめのみやこ)では「時は戻らない 夢は戻れる」と歌う。ウクライナ紛争を念頭においた歌にも思えるが、希望を失いかけた人へのエールにも思える。そして最後の「あとがき」では、たとえ絶望が見えてしまうような出来事があるかもしれないが、希望が見えるような方向に向くようにと励ます。

 「世界が違って見える日」がよいアルバムなのか、そうでもないのかはまだ分からない。現在の社会や世相の観察と批判、そして歌を聴いている人への肯定と励まし。昔聞いていた深夜ラジオ番組「中島みゆきオールナイトニッポン」(月曜第1部)を思い出す。なぜ、中島みゆきはこういう歌を作り、こういうふうに歌ったのか。もう一度、最初から、M1の「俱に」から聴いてみたいと思う。